火星物語

私が火星移住計画の第204次移民団に選ばれて火星に入植してから2年がたった。
恋人のマモルとは、星間通信メールで話をしているが、彼の手のぬくもりを感じたのはもう遠い過去のように感じる。
彼は大学を卒業して、地球のスペーステクノロジー開発会社に就職して働き始めたらしい。
「俺が宇宙最速の移民船を実現するから、そうすればいつでも会えるようになるよ」と励ましてくれたが、その日が来るのはまだ先だ。
気象制御センターの予告通り、夕方からテラフォーミングを促進する雨が降り始めた。
うっかり傘を忘れてしまった私は、バス停の屋根の下に逃げ込んだ。
濡れた髪をハンカチで乾かしながらふと空を見ると、次回の移民団を迎えに星間移民船がゆっくりと火星を飛び立とうとしていた。

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